技術コンサルタントとして最初のクライアントは、中堅の計測器メーカーでした。
先輩コンサルタントが、営業活動をすでに終えていて、先方もリーン製品開発を自社に導入してみたいと思っていたようでした。
ただ、コンサルタント料に関して折り合いが合わず、先輩コンサルタントは断ろうとしていたようなのですが、私の練習に丁度いいという感じで受けてくださいました。
順調な滑り出し
私はまだ大手企業の籍はあって、有給を取りながら月一回のコンサル活動を行ったのです。
コンサルティングの進め方は、新製品開発を担当する10人くらいの現場の技術者たちに、リーン製品開発手法を教えながら、現状の課題、問題点を改善しながら、新製品開発を成功させるための支援をするというものでした。
コンサルタントとしてのデビュー戦です。
最初の2、3回は先輩と同行してもらい、見本も見せてもらいながら、徐々に私の存在感を出して行くという形で進めていき、4回目くらいからは私一人で進められるようになりました。
最初のころは、先方の若手技術者からも鋭く突っ込まれて、うまく反応できないようなこともありましたが、徐々に自分の個性を前面に出せるようになってきたと自分でも感じます。
こちらが持っているコンテンツを使った教育が半分、現場の課題をどう解決していくかという議論が半分という感じで進めます。
メンバーは皆技術者なので、割と大人しい人が多く、こちらが指名すればきちんと話をしてくれますが、活発な議論がなかなか湧かないところがあって、ある時、グループの代表格の方に、「皆さん大人しいけど、うまく伝わってますかね?」と聞くと、「すごく伝わってますよ。誰も寝てないでしょ。こんなの初めてですよ。」と言ってくれました。
自分らしさが出るほど、想いが伝わるのかも。
とてもうれしい言葉だったし、すごく自信になりました。月一回という限られた状況で、新製品開発のテーマ自体が会社側の都合で遅れていたのですが、コンサル活動としては予定通りに進んでいたと思います。
役員会での事件
開始から半年後に、コンサル活動の状況を役員会で報告して欲しいと依頼がありました。
現場での活動は、そこそこ順調と考えてたので、役員会でも自信をもって報告したつもりでしたが、役員会の雰囲気は、初めからあまり好意的ではなく、質問にも少し棘があるような質問もありました。
途中で聞いた話ですが、これまでコンサルティングは何度か頼んだことがあるものの、一度もうまく行ったことがなく、最初から疑問視する役員が多かったようでした。
価格交渉で値切られたのもその辺に理由があったのだと思います。何人かの役員がそれ見たことか、と言いたかったのだと思います。それでも何とか受け答えをしていたのですが、最後に、常務さんという人が、「ところで新製品プロジェクトが遅れているようだが、なぜかね?」という質問が飛びます。
えっ、それは御社の問題でと心の中で思いながら、どう答えていいか頭の中が一瞬真っ白です。
プロジェクト担当の部長さんの顔を見て、助けを求めますが反応がありません。
そんな約束してないのに。。。
しかし、ここを有耶無耶には出来ないと思い、「私どもは、プロジェクトの進行そのものには直接関わっていません。」と発言をしたところ、「最初に、御社がプロジェクトを計画通りに進められる、と言ったから依頼したのに、それはうちだけの問題だと言うのかね。」と言われ、周りの役員たちの顔も少し険しくなっていきます。
最初の話には私自身は関わっていないものの、先輩コンサルにしろ、プロジェクトの日程管理まで、社内的な権限のない私たちがコントロールできるはずはないので、プロジェクトの日程を守るなんていうコミットのしようがありません。
プロジェクト担当部長も、それは良くわかっているはずなのに、会議中に発言がありません。
後で聞いたところ、もうちょっとうまく言って欲しかったとのこと。社内のコミュニケーションの問題まで我々ではどうにもならんと思ったのですが、おそらく、プロジェクトの始めの段階でトップ、現場、そして我々の間でのボタンの掛け違いがあったのだと考えることにしました。
結局、役員会の2か月後、契約満了の前に解約の申し出があり、最初のクライアントとの仕事は終了となりました。
とても残念なことではありますが、ひとつの教訓になったと思います。
失敗からの学び
以来、新たにお仕事を始めるときには、お客さんのゴール設定、期待値を最初に明確にするか、ゴールが不明確の場合は、最初の1、2か月間はゴール設定、あるいはプロジェクトの可能性検討に時間を使って、トップと現場を含めた期待値ギャップが起きないように最大限の注意を払うようにしています。
かつて10年間の外資系企業での経験から、プロジェクト前にきっちりと内容を決めて、決めた内容を契約に盛り込んで仕事を進める欧米系文化と、なあなあの状態で始めて、やりながら考える日本文化の違いで苦労したことを思いだしました。
失敗から学ぶことも多い。
今回は、顧客との期待値ギャップを生じさせないということを学んだ。
コンサル業のお客さんとの契約は、欧米流をしっかり取り入れ、初期の定義を明確にすることを守りつつ、日本的な融通を効かすところとうまくバランスしていこうと今は思っています。
外資系企業では、コンサルティングサービスを実施する前に、SOW(Stetement Of Work)という準契約書のようなドキュメントのやり取りをします。業務委託のような本契約があって、その下位に位置するもので、プロジェクトの範囲、成果物、やることとやらないことを細かく規定したもので、お互いのサインを取り交わします。
とくに、欧米系企業では、やらないことを書くことに気を使います。
日本人が見ると、ネガティブに捉えてしまい、仕事やる気ないんじゃないかと思うくらい、はっきりと書きますが、これによって、お互いの勘違いはなくなるはずです。
私は、ここまではやりませんが、プロジェクト開始時に、文書で提案書を必ず提示することにしていて、そこにプロジェクトの目的、成果物、進め方などを取り交わすようにしています。
余談ですが、この考え方は企業対企業の関係だけでなく、本来は、企業内の上司と部下の間でも通用するものかもしれません。
上司の期待値は何か?をしっかりと考える癖は、社内マーケティングなどとも言われ、多くの人が社内マーケティングの考え方を持つことで、会社のコミュニケーションの質は高まって、社内改革が非常にうまく進むのではないかと思います。
社内マーケティングの考え方は、USJを立て直したことで知られる森岡毅さんの「マーケティングとは組織革命である。」の中で学びました。良かったら参考にしてください。
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