中小企業診断士の資格は取りませんでしたが、今、実際に中小企業の経営支援を行っているという話です。
このブログを始めたきっかけは、中小企業診断士へ挑戦するということでした。
しかしながら、別記事で書いたように、資格試験は一回しか受験せずに挫折というか、診断士の資格を目指すことをやめていました。
理由は、実際に製品開発に特化したコンサルタントとして起業して、現実に仕事を始めたために受験準備をしている時間的な余裕がなかったことと、あとは実際に仕事の依頼があるということで、資格そのものの必要性がないかもしれないと思ったからということにしています。ちょっと後付けの言い訳も含んでいますが。。。
しかし、今、64才になり、コンサルタントとして独立してもうすぐ5年になろうとしていますが、実は今年度、複数の中小企業の経営支援をさせていただくことが出来るようになっていたのです。
その辺りの経緯と、もう一度、「中小企業診断士」という資格の意義について考えてみたので共有します。
現在出来ている中小企業診断士の仕事
元々、私がやっている製品開発コンサルと中小企業診断士がやるべきことは、それほど違いがないのだと思います。
製品開発コンサルとしての仕事は、中小企業に限らず大企業に対しても、製品開発組織に関わる企業の悩みに対してアドバイスや支援を行います。
製品開発に特化はしていますが、製品開発として目指すことは経営課題とも密接に繋がっている場合がほとんどなので、アドバイスや支援の内容も経営視点で行う必要があります。
なので、結論からいうと、そもそも製品開発コンサルとして看板を上げて仕事をさせていただいている時点で、中小企業診断士のやるべき仕事を実施していると言ってもいいのだと思います。
では中小企業診断士がやる仕事とは何でしょうか?
中小企業診断士の仕事
中小企業診断士の仕事は何かというと、中小企業の経営に関するコンサルティングです。
普通は、「経営コンサルタント」という看板を上げて仕事をすることになりますが、実はどんな看板を上げてビジネスをするかは、人それぞれだと思います。
人それぞれ得意分野も違うし、ターゲットにする業種などによって、ポジショニングが変わってきます。
マーケティングの基本でもありますが、「何でも出来ます」は「何も出来ない」に通じてしまい、顧客からも敬遠されてしまうのです。
中小企業診断士の方たちも、例えば「営業改革」を得意にしてアピールしている方や、「生産革新」を売りにしている人、「経営戦略」に特化している方もおられます。
そしてこのような特化型のコンサルは、資格がそもそも必要なものではないのです。
中小企業診断士の資格を持つことと持たないことの違い
資格を持っていることと持っていないことの差異は何でしょうか?
まずは、名刺や看板に「中小企業診断士」と書けるかどうかという違いがあります。
顧客企業から見ると資格を持っていることに対する安心感があります。
中小企業診断士の資格を取得するためには、7つの学科、「経済学・経済政策」「財務・会計」「企業経営理論」「運営管理」「経営法務」「経営情報システム」「中小企業経営・中小企業政策」をすべて学んで決められた習得レベルに達しなければなりません。
人によって得意分野に違いはあっても、全般的な知識レベルがある程度保証されていることになります。
もう一つ大きな違いは、公的機関などに専門家としての登録が出来るかどうかです。
コンサルタントが仕事を獲得する方法は、
- 独自の営業活動(ホームページや広告などを含む)
- 知り合いの紹介
- 商工会議所、地方自治体、公的機関からの派遣
ということになると思います。
この中で、1と2は、資格があるかないかで顧客の印象が変わることがあっても、資格がなくて出来ないことはありません。
ただし3については、資格がないことで、専門家として登録してもらうことに高いハードルがあります。
中小企業診断士の資格を持っていないと、公的機関で専門家登録を受け付けてもらえない場合もあります。
受け付けてもらえたとしても、審査でやや不利になることもあります。
資格を持たない最も大きなデメリットは、公的機関での専門家登録で仕事を獲得できるかどうかなのかもしれません。
現在、出来るようになったこと
では、中小企業診断士の資格を持たない私が、今出来るようになったことは何かというと
「公的機関から中小企業支援の経営支援に関する依頼」
なのです。
繰り返しになりますが、元々、製品開発という切り口ではあるものの中小企業に対する支援やアドバイスをする仕事はしていました。
ただし、仕事の入り口が経営支援という切り口ではなかったということですが、今年度、とある県の企業支援団体からの依頼で、中小企業の経営者向けセミナーでの登壇(2件)、中小企業経営支援の仕事(2件)を実施しました。
どちらの仕事も、中小企業診断士の方がメインの仕事としている内容です。
中小企業診断士と同等の能力を認められる流れ
中小企業診断士の資格がなくても、能力的に同等(あるいはそれ以上)と認められさえすれば、仕事を獲得することが出来るわけです。
私自身が公的機関から中小企業支援者として認められるようになった経緯が、何かの参考になるかもしれないので共有します。
キッカケはホームページからの問い合わせ
2021年5月ころ、とある県の企業支援団体からメールでの問い合わせがありました。
ホームぺージを拝見しました。
御社が提供する「リーン製品開発手法の実践セミナー」の内容を、当県の自動車関連企業の技術者向けに実施していただけないでしょうか?
一度、ビデオ会議等でお打ち合わせさせていただければ幸いです。
こんな内容でした。
後日、Zoom会議を設定して話を聞いてみると、その地方は自動車関連の中小企業が多く、しかも景気は良くないようで、みな新たな事業、新たな販路開拓をしたいと考えているものの、なかなか突破口が見えずに困っているとの事で、大手の下請け的な仕事をしている会社に、自社製品を生み出す方法を指導していただきたいという話でした。
私自身のコアは、製品開発手法を指導することなので、それで良ければお受けします、とお答えして、更に状況を聞いていくと、現場の技術者の能力を上げることと、経営者に対しても、新製品を生み出す、新規顧客を開拓するための知恵を授けたいのだという話をされていました。
セミナーの内容、時間(複数日の期間)、やり方などはすべてお任せします、とのことだったので後日、私から以下のような提案書を提示させていただきました。
カリキュラム案(技術者向けセミナー)
第1日 製品開発の基本(4時間)
- 製品開発とは?
- 製品開発のジレンマ(様々な選択肢)
- トヨタの開発手法(なぜトヨタは成功しているか)
- コア技術戦略の成功事例
- 持ち帰り課題:自社のコア技術
第2日 顧客価値を知るマーケティング(4時間)
- マーケティングとは何か?
- マーケティングの進化
- ジョブ理論による顧客価値の発見
- ジョブ・ストーリーから新規事業を創造する演習
- 持ち帰り課題:自社の顧客のジョブ・ストーリー
第3日 製品原理を分解する(4時間)
- 製品のトレードオフを理解する(トレードオフ曲線)
- 製品の原理を因果関係マップを使って追いかける
- 因果関係マップの作成演習(身近な製品の因果関係マップ)
- 持ち帰り課題:自分の好きな製品の因果関係マップ
第4日 技術戦略の立て方(4時間)
- 戦略とは?
- 技術戦略のアウトプットは技術ロードマップ
- 3C分析とSWOT分析
- 自社技術を誰に買ってもらうのか?
- 持ち帰り課題:自社にとっての新たな顧客候補を選別する
第5日 フラグシップ製品の企画(4時間)
- 自社技術を新しい顧客に採用してもらうためのプラン
- フラグシップ製品の因果関係マップ
- フラグシップ製品の試作に必要な技術要素
- フラグシップ製品の開発計画書→終わらないものを課題
第6日 フラグシップ製品の開発計画書発表会(4時間)
- 各自の成果発表会→できれば所属企業から上司を招待
上記の提案をしたところ、先方からは非常に興味を持っていただき、さらに内容と私自身の経歴を考えたときに、むしろ経営者向けのセミナーをやってもらいたい、との申し出をいただきました。
経歴云々については、実際に中小企業の経営経験や大手企業の幹部としての経験を指しているのかもしれませんが、実際のところはその判定基準は私にはわかりません。
ただし、提案の内容に多少なりとも経営的な要素を感じていただけたのだと思っています。
特に「戦略」とか「マーケティング」というところがキーワードだったかもしれません。
申し出をお受けして、新たに中小企業経営者をターゲットにした3日間のセミナーを下記のように企画して先方に提示しました。
経営セミナープログラム(経営者向け)
第1日 技術経営(MOT)とコア技術戦略(4時間)
- 技術経営(MOT)概論(トヨタの強さ、コア技術戦略の理解など)
- ワーク:自社のコア技術とその優位性の自己評価(ポジショニング)
- 顧客価値のトレードオフにイノベーションのチャンス
- 製品原理を顧客価値変数と設計変数に分離して読み解く
- ワーク:因果関係マップで自社コア技術と顧客価値の関係を知る
第2日 マーケティングによる事業創出(4時間)
- 市場・環境の急激な変化で進化するマーケティング理論
- SDGs、マーケティング3.0、ジョブ理論の概要
- ワーク:ジョブ・ストーリーからイノベーションを起こす演習
- トヨタCEから学ぶ事業プロデュース能力
- 事業プロデューサーの定義と育成
第3日 What創出と戦略策定(4時間)
- 間違った戦略、良い戦略と悪い戦略の違い
- 正しい戦略の立て方 ワーク:3C分析を時間軸で読む
- 収益を制限している組織のボトルネックを理解する
- ボトルネック理解から戦略立案までのステップ確認
セミナー後にいただいた経営支援の依頼
2021年の9月から10月の中、3回にわたってセミナーを開催しました。
コロナの影響で、最初の2回はやむを得ずオンライン開催となり、最後の1回だけは非常事態宣言、蔓延防止などが解除された間隙を縫って対面での実施となりました。
地方企業の経営者、管理職の方たちに参加いただき、コア技術戦略の立て方、マーケティング思考を組織内に作っていく方法などの話をさせていただきました。
結果、参加企業のうち2社から、経営改善のための支援要請をいただきました。
支援要請の内容は、一社は新たな販路開拓についての相談、もう一社は新規事業立ち上げ方法についての相談で、現在、継続支援中です。
支援の詳細内容については公開できませんが、ここで申し上げたいのは、元々の製品開発コンサルとして支援要請を受けたのではなく、中小企業の経営支援についての要請だったということです。
製品開発コンサル→中小企業の経営支援
経営コンサルとしてのアピールをしたわけではなく、あくまで製品開発コンサルについての商談をする中で、かつ中小企業診断士という資格がない状態で、経営についての要請を受けることが出来るということが実証されたわけです。
さらに、2022年の2月には、同じ公的企業支援団体から中小企業経営者向けのセミナー講師の依頼を受けます。
地元企業の活性化のためになる良い講演のテーマはありませんか?という質問をいただき、少し時間をいただいて講演テーマの提案をさせていただき、それが実現した形でした。
講演のテーマは、「学び続け変革し続ける経営者を目指す」でした。
オンライン開催でしたが、約30名の地方企業の経営者の方たちに参加いただき、手前味噌ではありますが、非常にポジティブな反響をいただくことが出来ました。(セミナーの内容記事:「リーン生産、リーン開発を学び続け変革し続けるカリスマ経営者から学ぶこと」)
その他の参考記事:「リッチ・シェリダン(Joy Inc.) から学んだこと」
セミナーの内容は、経営者を啓蒙するためのものです。
結論:中小企業診断士の資格は必要か?
自分の知識や経験、ノウハウを少しでも多くの企業で役立ててもらうことが最も大事なことであり、そのためにまだまだ努力すべきことがたくさんあるのですが、私自身は、今、中小企業診断士の資格を取る必要を感じていません。
改めて
資格 ≠ 能力
ということであり、また、自分の能力をどうやって必要とする人たちに理解してもらえるか、ということが重要であることがわかります。
情報を発信し続けること。
発信し続けることが、見込み顧客とのコミュニケーションの出発点になるのだと思います。
これからコンサルタントとして独立を考えている方たちにとって、このことが何かのヒントになってくれればうれしいです。
私自身も、もっともっと多くの人たちにアピールしたいし、もっと自分の能力も高めていきたいと思っています。
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